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2017-08

「町医者理論」初出再掲・・・教師力ブラッシュアップセミナー「経営力」誌 2008.4 - 2012.06.29 Fri

 これは前任校の時に発表したものだ。発表当時、ずいぶん方々から叩かれた。
 叩かれた理由は、やはり不完全な書きぶりであったということに尽きる。
 特集テーマは「教師修業の方向性を探る」・・・今考えれば、そもそもこのテーマへの違和感がスタートだったのである。「教師修業」という言葉を、方々で「やめましょうよ」と話し始める以前だった。

 ここを土台に、ゆっくりと、もう一度議論を積み上げてみようと思う。もう手に入らない冊子ですので、全文転載します。

教師力ブラッシュアップセミナー「経営力」誌 2008.4
 教師修業の方向性を探るⅠ ~誌上シンポジウム・「町医者モデル」を検討する~
 提言:「名人モデル」の追究ではなく、「町医者モデル」にシフト転換しよう

一.野口芳宏先生の話芸に思う
 二〇〇八年二月十六日。研究集団ことのはが主催する研修会の席上で、一ヶ月ぶりに、国語の授業名人の誉れ高い野口芳宏先生にお会いした。この日も、野口先生の縦横無尽の語りは、すばらしかった。
 研修会の席上では、十年来お世話になっている岡山洋一氏と御一緒した。日本有数の教育ディベートトレーナーである。
 終了後、岡山氏は、満足感あふれる表情で、「いやあ、石川さん、野口先生は本当にすごいね、これは芸だね、まねの出来ない芸だよ。」と言う。さらに岡山氏は話し続ける。「たしかに、技術として抽出できることもある。それを抽出することに意味もあるだろう。でも、とにかく、決してまねできない、野口先生の話芸だよね」。正確ではないが、まあ、そういうことをおっしゃる。
 私は、若い日から今に至るまで野口先生にたくさん学んできた。これからも学び続けるだろう。だが、私は、私がどんなに追い求めようと、私自身は野口先生の域には到底到達しない凡人であることを知っている。幸いこのことだけは、若い時から知っていた。そして、かつて、名人を追い求めた多くの教師は、自分が斉藤喜博になれないことも、大村はまになれないことも、わかっていたように思う。
 だが、法則化運動以後、技術の抽出とシェアリングの考え方が広まると(教育史的には革命的に意義のあることだったわけだが)、抽出された技術を追究し再現することで、誰もが名人に到達しうるという幻想がまきちらかされることになった、と私は思う。野口芳宏先生や有田和正先生の域に到達したいというほとんど絶望的な願いを追究するというのが、学びの定番になってしまった、私はそう感じている。
 私は、こういう学び方を「名人モデル」の追究と呼ぼうと思う。

二.野中信行先生の学級を見る
 二〇〇八年二月八日。かねてよりの念願であった野中信行先生の学級を参観させていただいた。野中先生にとって、現役最後の学級であり、そして、最後の卒業学級である。 ここまで書くと、読んでいる先生方は、すぐにこう思う。「石川さんは、野中先生の集大成を見に行かれたのだな」と。それは、違う。私は、そこに野中実践の最終系や集大成があるなどと、全く考えていない。
 野中信行先生は、退職を控えたこの五年間に、全国にその名を轟かせる教師になった。新聞の取材がどんどん野中学級に押し寄せた。書籍が立て続けに出版された。講演や演習の依頼は引きも切らなくなった。学級参観を希望する人もたくさんいる・・・・・・。氏が学級経営において提唱した「3・7・30の法則」は、向山洋一氏が提唱した「黄金の三日間」に比肩する画期的な提案だ。
 しかし、「3・7・30の法則」ときちんと向かい合った人間ならば、つまり、書籍や氏ご自身が無償で頒布し続けた資料を見るならば、それが、愚直で凡庸とさえいえる日々の積み重ねにほかならないことに気付くだろう。
 野中先生の本質は、世に言う「名人教師」ではない。向山洋一氏や有田和正氏、野口芳宏氏とは違う。田尻悟郎氏や酒井臣吾氏とも違う。要するに、「ごく普通の教師」なのだ。
 野中先生は、いよいよ迫ってきた現役教師としての最後の日々も、ただただ日々の営みを繰り返しているはずだ。少なくとも、私には、そのことだけは見せていただく前からはっきりしていた。残念ながら、ここがよくわかっていない人は多い。「名人モデル」追究に染まりきっているからだろう。野中先生はほとんど教室参観を受け入れてこなかったというが、そういうわけで、その理由は、はっきりしている。多くの参観者が、名人の芸や達意の芸が、野中先生のクラスにはあるのではないかと勘違いされているからだ。そうしたものを求めるのなら自分の学級よりもよい学級・よい学校はまだ他にある、野中先生はそう考えていると思う。また、そういう名人芸を追い求めることでは、日本の教室は救われない、そういうことまで、考えていらっしゃると思う。
 さて、二月八日。詳細の報告は割愛したいと思う。朝と帰りのみ紹介する。そうしたことが一日じゅう行われていると理解してほしい。
 朝の会の前に、子供たちは、朝学習を行っている。本を読んでいるものもいる。机に向かいイスに座って取り組んでいる。しかし、姿勢の悪いものもいる。なんとなく集中できずにいるものもいる。日本じゅうの学校で、毎朝繰り返されている営みそのものではないか。入室した野中先生は、早速、上着を着たまま着席している子供を、「上着を脱ぎなさい」と短く叱る。野中先生の書籍や論文にあるのと全く同様である。深追いしない。しかし、短く叱る。指導はその場で終わる。朝の会では、筆箱の中身を日直に点検させる。筆箱の中のものは決められている。それを、全員が机の上に出し、日直の指示にしたがって確認していく。
 六時間目の将棋活動後、将棋を片付けずに自分のことをし始める子供がいる。帰りの挨拶だというのに、自分の身の回りのことをごちゃごちゃとやり続けて周囲に迷惑をかけていることに気付かない子供がいる。一年間粘り強く指導し続けて、このくらいなのだ、と野中先生はおっしゃる。もちろんものすごい卓越した指導力を発揮して、「掌握」する先生もいるだろう。しかし、野中先生の姿こそが、まさに日本じゅうの教室で繰り返されている姿そのものではないか。ゆらゆらと揺れる子供の姿勢が真っ直ぐになるまで、何度も何度も坦々とやり直しを命じる。その姿に、日本の教育が守り通してきたものを見る思いがして、胸が熱くなる。金曜日の帰りの会では、子供たちは机上に、机の中にあるものを全て載せる。学校に置いてはいけないものを確認して持っていかせるためだ。それにも関わらず、ごちゃごちゃになったプリント類を、机の上に置いて、そのまま帰ろうとする子供がいる。机の中にあるものに関心を示していないのである。ここでも野中先生は、目ざとく見つけ、持っていかせる。

三.町医者を目指そう
 私は野中先生が文字通り、普通の教師として普通の日常をまっとうしようとされていることに、言葉もないほどの感銘を受けていた。
 今、名人教師を目指すことが、教師の学びモデルの有力な一つになっている。私は名人教師に学ぶことを否定しているのではない。私自身も名人教師から本当にたくさん学んできたし、これからも学ぶつもりだ。しかし、教師の学びのモデルが身の丈に合わない「名人モデル」にのみ傾いているとしたら・・・それを危惧する。特に、誠実に学ぶ若手教師の多くが、そのモデルしか持ち合わせていないのではないか、ということを感じて強く憂慮する。
だから敢えて言う。私たちは、名人の素晴らしさにたくさん学びながらも、間違っても、名人を目指さないことだ。私を含め、ほとんどの教師は名人にはなれない。私たちは日々を大切にし、誠実に日々を歩む教師を目指すべきではないか?
 町医者は、大学病院の専門医とは違う。高度な医療技術や最先端の機材を持っているわけではない、しかし、自らの経験と地に足のついた学びを基盤として、大まかな診断ができる。難しい判断を迫られる時は、仲間や、あるいはもっと専門的な技能を持っている人に助けを求めることができる。自分一人の技量で立ち向かうのではない。それが町医者だ。私たちは今こそ「町医者モデル」を追究するべきなのだ。

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● COMMENT ●

「町医者モデル」共感します。
「名人モデル」の追従と挫折はまさしく自分にも当てはまります。
「名人モデル」しかもたなかったかつての自分は、幻想の追従に随分と時間をつかってしまいました。もし、「名人モデル」と「町医者モデル」二つのモデルをもっていれば、また違う成長があったと思い、悔やみます。
憧れをもつことは素晴らしいですが、幻想におかされつづけていた時間は、あまり有意義ではなかったと感じています。この時間に、もっと地道に、そう町医者が目の前の患者の診察をひたすらに続けるような、そんな過ごし方ができていたらと後悔しています。
まあ逆に、そんな後悔があるから、地道さの意味を感じ取れているのかもしれませんが。


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Author:石川晋
北海道の中学校教師を退職しました。
都内に潜伏して、ゆっくりのんびりしなやかに、教育、芸術、自然の話をしながら、これからの自分のことを考えつつ、新しい状況に対応する「学びのしかけ」のことを考えて行きます。facebookアカウントは、
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ぼくにできそうなことは、どんどんお受けしますので、遠慮なくお知らせください。FBのメッセンジャーが一番確実です!

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