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2017-10

★学びのしかけプロジェクトメールマガジン183号 石川拓さん「進路指導から考える、インクルージョン発想の学びのしかけ」 - 2011.12.25 Sun

私が編集するメールマガジンの最新号。今号は石川拓さんです。

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メールマガジン「学びのしかけプロジェクト」
               183号 2011年12月25日発行
                      (毎週火金日発行)
http://www.jugyo.jp/
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★目次★
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1.進路指導から考える、インクルージョン発想の学びのしかけ
            「インクルージョン」編集委員
             東京都・都立大泉特別支援学校  石川 拓
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 特別支援学校の進路指導専任という立場から丁寧な発信を続けてくださ
ってきた石川拓さんのご執筆です。3月で区切りを迎える本メールマガジ
ンへの登場は今号が最後になるものと思います。     (石川 晋)
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1.進路指導から考える、インクルージョン発想の学びのしかけ
            「インクルージョン」編集委員
             東京都・都立大泉特別支援学校  石川 拓
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 進路指導専任として遭遇した事例からの考察です。前回(注1)は最も
障がいの重い子どもの進路指導から、「学校から社会へ」を意識した「生
活づくり」発想について考えました。
(注1)137号 2011年9月9日発行
 http://archive.mag2.com/0000158144/20110909230000000.html

 今回は軽度知的障害のある子どもの進路指導から、インクルージョン発
想の学びのしかけについて考えてみます。文中の名前は全て仮称です。

1)思いがけない電話

 高等部3年生の陽子さんの実習先(注2)から電話がかかってきました。
 引率していた岡田先生からです。福祉作業所(注3)での実習初日の午
前中のことでした。

(注2)実習:東京都内の特別支援学校高等部3年生では、卒業後の進路
   先として希望する施設で、利用の適性を判断するために実習を行う。
   必要な支援等を検討する機会でもある。選択肢の少ない肢体不自由
   児にとって、人生を左右する極めて重要な機会である。
(注3)本稿では就労継続支援B型と言われる、一般就労が困難な方が通
   所するタイプの福祉的就労の場を意味する。一日5時間程度の生産
   活動で月額数千円~1万円程度の収入が得られる。

「石川先生、岡田です。陽子さんの実習、いったん中止します。」
『どうしたの?体調でも悪いの?』
「・・・いいえ・・・これから学校に連れて戻ろうと思います。先生、時
間あります?」
 電話の向こうで陽子さんの泣き声が聞こえます。ただならぬ様子です。
『時間は大丈夫。じゃあ支援係長さん、電話に出られそうですか?』
「はい。係長さん、隣にいらっしゃいます。」
『じゃあお願いします。』

 係長から次のような説明がありました。

・朝礼で自己紹介を終えて、雑誌付録の袋詰め作業が始まるまでは、はつ
 らつとしていた。
・作業が始まってすぐに蒼白になり、作業も、受け答えもしなくなった。
・引率担任が声をかけた途端「実習、やらない!帰る!」と叫んで号泣した。

 原因は思い当たらないとのことです。実習前に福祉作業所に行って、オ
リエンテーションを受けた後には「あたし、がんばってくるね!」と張り
切っていたのです。

2)陽子さんの気持ち

 進路相談室で、岡田先生と僕と陽子さんの3人で面談をしました。
 「陽子さん、石川先生に、自分で話せるね?」と岡田先生にうながされ
て、陽子さんが話し始めました。
「・・・びっくりした。・・・・違うって・・・」
『びっくりって、何が?』
「・・・周りが、全然違うって。あたしは、(その福祉作業所には)行け
ないって・・・」
 陽子さんは、福祉作業所の利用者のほとんどが、今までに出会ったこと
のないような人達だったから、やっていけないと思ったと言うのです。

 実習先の福祉作業所の利用者は90%以上が知的障害特別支援学校の卒
業生でした。肢体不自由特別支援学校にも知的障がいを併せ持っていて、
行動や情動の調整が難しかったり、こだわりが強いなどの気になる特性を
持つ子どもはたくさんいます。でも、自力では動けず、発声も上手にでき
ない場合が多いので、知的障がいに伴う特性に周囲が気づきにくい場合が
少なくありません。

 陽子さんが12年間所属してきた学習グループは、10%程度のごく少
数の会話ができて対人関係も穏やかな子ども達で構成されていました。
ですから、福祉作業所の、元気いっぱい歩いたり走ったり、奇声を発した
り、こだわりが強かったりするなどの特性を持つ人が大勢いて、にぎやか
な環境に驚いて、あまりの違和感に心が耐えられなかったのです。

 僕の勤務校にとっては、福祉作業所を進路先に選べる生徒は10年に一人
いるかいないかです。90%の生徒は運動機能障がいに加えて、知的障がいや、
見ることや、聞くことや、てんかん発作や、健康を維持する困難さなどの、
重複した重い障がいがあります。福祉作業所は、身辺自立と自力通所できる
ことが通所の前提条件です。利用者に対する支援者の数が少ないからです。
ですから福祉作業所に通うために、陽子さんは岡田先生と2年間をかけて、
次のような能力を身につけてきました。

・電車・バスの利用と電動車いすでの街路走行を含む自力移動の能力
・支援されるのを待つのではなく、積極的に支援を得ようとするコミュニ
 ケーション能力
・左半身に麻痺があったので、利き腕と口などを使って、着脱衣や食事な
 どの日常生活動作ができる能力

 学校から社会に出た時に役立つ方法を身につけて、自分に対する自信や
期待感を高めて、「自分の事は自分で」という気持ちを太く強く育ててき
ました。大変な努力の末に実現した実習だったのです。でも、初日の数
十分で「だめ、できない、やめる」と思うほど、驚き、動揺して、そこに
居ることに耐えられなかったのです。もっと多様な人や環境での学びを提
供できていたらと、悔やまれます。

3)学びのしかけづくりを考える

 僕はこのメールマガジンの初稿(注4)で、交流を目的としたキャンプ
にボランティアリーダーとして参加した時に、障がい児と健常児の喧嘩を
目の当たりにして激しく動揺して、次のような気づきを得たと書きました。 

 (注4)16号 2010年7月13日発行
 http://archive.mag2.com/0000158144/20100713230000000.html

『僕は障がいのある人に出会ったことがなかったから、彼らは常に支援さ
れる存在で、僕たち健常者は支援する人だと思っていたわけです。喧嘩が
できる対等な人として見てこなかった自分に気づきました。』

 これが特別支援学校の教師を志すきっかけだったので、障がい児の理解
充実に特別な思い入れがあって、情熱を注いできたつもりでした。ところ
が、僕は、陽子さんを「障がい者」とくくって見ることで安心していたの
です。障がい者が障がい者の施設に行くことには何の問題もないのだと、
ギャップなんて生じないと、そんな乱暴な考えのままでした。学生の時に
気づいたはずの偏見は今も自分の中に根を降ろしていたのです。

 陽子さんとの出来事は今から7年前の教職15年目のことでした。自信を
持ちはじめた自分に、警告を与えられた気がしました。
 その後同じ失敗を繰り返さないために、長く考え続けてきたことをまとめ
てみたいと思います。ABCDの4つのポイントになります。まだ整理しきれ
ていませんが、それらはインクルージョン発想の学びのしかけづくりにつ
ながっていくことなのではないかと思います。

A常に、人は「一人一人なのだ」という視点で、支援と指導を見直すこと
 陽子さんには、知的障がい者との交流経験を持たせれば良かったという
単純なことではなく、この人は肢体不自由、この人は知的障がい、この人
は精神障がい、などと障がいの種類で人を見ている間は、本質的な解決に
は達しないと考えるようになりました。結局、人は、一人一人違うのだと
いう当たり前のことを軽んじていたのではないかと思うのです。
 陽子さんが、今どのような生活をしていて、高等部卒業後にどのような
生活を希望していて、その生活が始まる移行期のギャップをできるだけ小
さくするために、どのような準備をするのかは極めて個別的なことです。
「障がい」ではなく、「困難」を見る。困難に寄り添うことを基本の発想
にしたいです。

B障がいを生み出すしくみを分析して、しくみを変える対策を講じること
 陽子さんの自宅から学校は遠く、スクールバスで通っていました。しか
も肢体不自由の単独校でした。そのために、多様な人に出会いにくいとい
う困難が生じていました。この困難を「壁」だと考えてみます。壁は、陽
子さんの中にはありません。陽子さんの存在の外に、特別支援学校に通学
することで多様な人に出会いにくいことや、主に知的障がい者を受け入れ
てきた福祉作業所の現状といったしくみが壁を生み出しているのです。言
い換えると、「障がい」はその人の外部にあるわけです。
 ある人の前に立ちはだかる壁を作るしくみは、一人一人の社会的な状況
によって異なります。どんなしくみの中でその人が生きているのかを分析
して、どんな内容をどんな方法で学ばせると、将来活躍できるかを検討す
る。これも基本の発想になりそうです。
 
C異質なもの、多様なものが出会う機会を計画的に設定すること
 陽子さんが僕に鮮烈な学びを与えてくれたように、僕にはこれからも、
生徒達から変容を迫られるような学びや気づきが与えられるだろうと思い
ます。それは障がいのある子どもと活動を共にする機会が多いから、学び
や気づきとの遭遇が増えるのです。僕に学びの機会があるのと同様に、
そうした異質なもの、多様なものが出会う機会を、子ども達にもっと提供
できないでしょうか。

 僕の勤務校では、近隣の小学校、中学校、高等学校との交流及び共同学
習が形骸化しています。特別支援学校の発信力強化と、小学校、中学校、
高等学校のこうした活動への本気度を高める取組を続けたいです。

 陽子さんは、もっと多様な人との出会いが必要だったと、具体的な課題
を教えてくれました。こうした気づきはイベント交流のような大きな集団
での交流では得られません。個別的な関わりや出会いのしかけが有効です。
子ども同士を固定のペアにしたり、教師と生徒も学校を超えて固定のペア
にしたりした上で、活動を共有するなどの工夫で、漠とした学びを具体的
な知に変えられないでしょうか。(注5)交流及び共同学習の具体的な実践
例は次の文献に掲載しました。
(注5)『授業成立の基礎技術2 クラスに安心感が生まれるペア・グル
 ープ学習』石川晋編著 学事出版 第2章の12拙稿
 http://www.amazon.co.jp/dp/476191324X/
  
D学校内実践から、社会で活躍するための実践に転換すること
 陽子さんへの進路指導は、高等部卒業後の作業所通所を想定して、(注
6)生活単元学習の中で、移動・着脱・排泄・コミュニケーションなどの
課題毎に、1ヶ月から数ヶ月かけて個別指導を行ってきました。
(注6)生活単元学習については、本メールマガジン180号増川論文参照
 http://archive.mag2.com/0000158144/20111218230000000.html

 でも、どんな人たちとの「日常生活」が待っているかを想定することや、
陽子さん自身の対人関係の経験不足に、教師が気づけなかったために、
努力して身につけてきた能力を発揮する前に、作業所に通所することは、
卒業後の選択肢にならなくなってしまいました。

 学校から社会へという視点で、希望する将来の「生活」をどのようにつ
くるのか、十分な想定に基づいて指導を計画しなければ、いくら何かの技
術や能力を身につけても、生きる力にはならないのです。

 多様な人が暮らす社会の中で、その多様性を受け止めて、支え合いなが
ら生き抜く力をつける学びのしかけづくりの鍵は、一人一人の「生活づく
り」の精度にあると考えます。今の生活と、卒業後の生活の間に生じると
思われるギャップと、ギャップを乗り越える対応をどれだけ想定できるかが
精度を左右します。
 その生活づくりに向かっていく過程で、学校内、教室内、授業内の実践
から抜け出す道筋が見えてくるのではないでしょうか。

授業づくりネットワーク誌の最新号
→ http://www.gakuji.co.jp/magazine/network/index.html
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【編集後記】
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 拓さんが挙げた四つのポイントに有意な順位性があるわけではありませ
んが、ぼくには最初の指摘「常に、人は『一人一人なのだ』という視点で、
支援と指導を見直すこと」は胸に響きます。中学校というところでは、小
学校、中学校と比しても、圧倒的に集団掌握を要求され、それを是として
学校学級の活動が進められています。その中で、「一人一人なのだ」とい
う視点を私自身がどれだけ持てているだろうか。突きつけられる課題です。
 中学校の現状を少しずつ変えていきたいと、私も強く思います。
 今号の配信数が1800人になりました。たくさんのみなさんにお読み
いただけて、本当に感謝しております。

 次号は、ハイブリッドチームから、阿部隆幸さんのご登場です。年内最
後の配信になると思います。どうぞお楽しみに。
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メールマガジン「学びのしかけプロジェクト」
第183号(読者数1800) 2011年12月25日発行
編集代表:上條晴夫(haruo.kamijo@gmail.com)
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ールマガジンの記事を読んでいただいた率直なご意見・ご感想をいただけ
ると幸いです。本メールマガジンの内容に少しずつ反映をしていきたいと
考えています。
 編集長:石川晋
 副編集長:長瀬拓也・加藤恭子・藤原友和・佐内信之
登録・解除 http://www.mag2.com/m/0000158144.html
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石川晋

Author:石川晋
北海道の中学校教師を退職しました。
都内に潜伏して、ゆっくりのんびりしなやかに、教育、芸術、自然の話をしながら、これからの自分のことを考えつつ、新しい状況に対応する「学びのしかけ」のことを考えて行きます。facebookアカウントは、
https://www.facebook.com/profile.php?id=100000528475920
ぼくにできそうなことは、どんどんお受けしますので、遠慮なくお知らせください。FBのメッセンジャーが一番確実です!

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